すごいぞ、アスリート

3x3の今後とデュアルキャリアの課題 ―目標に向かって全力で走り続ける日々から見えるものとは

長根 泰斗(3x3)

スポーツ経験は、スポーツだけに還元されるものではなく、社会で生き抜くチカラに変換されていきます。
過去にスポーツをしていた、または現在もあるスポーツで活躍している人は、どのようにキャリアを選択して今、輝いているのか。
アスリート自身の経験談から「次の一歩」のヒントを得ていきます。

長根さんとは?


ー長根 泰斗(ながね たいと)さん
3x3 SANJO BEATERS所属
小学4年生の頃から兄や友達の影響でバスケを始める。夢であったプロバスケット選手になるチャンスを得るも自ら辞退。その後生計を立てるためにバスケとは離れ、働きながら人生と向き合う。再びプロとしてバスケがしたいと決意して3x3と出会い、自ら経営を学びながら、SANJO BEATERSへの加入と同時にチーム経営に携わる。
現在は、3年後に会社として確立させることを目指しながらも、一選手、一経営者として仕事と競技の両立を図るデュアルキャリアの道を歩む。

スポーツ経験と今

|長根さんのバスケとの出会いを教えてください。
2歳上の兄が元々バスケをやっていて、ミニバスに入っていた兄のお迎えについていったときにお試しでやったら面白かったんですよね。本当は当時ハマっていた「メジャー」というアニメの影響で、野球の方が興味はあったんですけど(笑)。気づいたら仲の良かった友達も、その兄もバスケをやっていて、自分も少年団に入ることにしました。
 
|現在の仕事はどのようなことをしていますか?
現在は所属チームの運営をしています。チームは、地域おこし協力隊という母体の中で活動しています。業務の大半は市から依頼されたもので、地域活性化のため、草刈やえざらい、集落活動もあります。残りはチーム運営のためのスポンサー営業やリクルート、イベント企画をメインに行っています。3年後には、3人制バスケのチームを運営できる会社として確立することを目指して動いています。
 

プロを目指して駆け抜けたバスケ生活と3x3との出会い

|お兄さんや周囲の影響でバスケを始められたと仰っていましたが、バスケを始めたのはいつですか?
小学4年生の時です。中学校でもバスケ部に所属し、3年間ずっとバスケに没頭していました。有難いことに高校進学のタイミングで地元の強豪からスカウトも受けていたのですが、そのチームの目標は全国大会出場で。直感的に「自分の目指す場所はもっと上なはず」と思いました。
ただ、自分の中で明確に行きたいと思う高校はなくて(笑)。進学先をどうしようか悩んでいた時に、テレビで放映されていた市立船橋の試合を観て、心からこのチームでプレーしたいと刺激を受けたんですよね。そのあと、直接学校に電話して直談判しました。
 
|高校に直談判…!かなり思い切った行動ですね!
自分としても結構“攻めた”と思います(笑)。幸運なことに、偶然電話口で対応してくださったアシスタントコーチが、地元の青森県出身の方で行動力を気に入ってくださって、特別に練習にも参加させていただくまでに話が発展しました(笑)。練習に参加してみて、やっぱりここでバスケがしたい!という想いは強まりましたね。ただ、当時既にスポーツ枠は埋まっており、前期試験は落ちてしまって。自分でも滑り止めとして受験した学校はなかったので、『もう市立船橋の後期試験しかない』という、だいぶ崖っぷちの状況でした(笑)。何とか合格を掴み取ることができて良かったと思っていますが、よく考えたらだいぶ怖いことをしていましたね(笑)。
 
|長根さんご自身の努力と高校への強い想いが見事合格に繋がったのですね。とても素敵です。
でも実は、高校時代は試合にはほぼ出ていません。数回メンバーに入れたくらいで、念願の全国大会でも活躍はできなかったんです。輩や同期には日本代表選手が在籍していましたし、練習もハイレベルで、自分にとっては決して甘くない環境下で過ごした3年間でした。ただ、プロになりたいという想いは全くブレなかったですね。自分の目指す場所への積み重ねと折れない精神を得た学びの期間でした。
 
|一貫してプロへの想いの強さが伝わってきます。高校卒業後は、プロの道へ挑み始めたのですか?
そうですね。コーチ陣には止められましたが、プロになるための専門学校に通い始めました。専門学校と大学ではスタートラインが違うので、とにかく自分自身でアピールするしかないんです。だからトライアウトも受けましたし、ハイライト動画を作成して全チームに売り込んだりもしました。“受け身になったら終わる”と思っていたので、自分というプレーヤーを印象付けるための行動はずっと起こしていましたね。結果的にご縁もあって、品川シティーバスケットボールクラブと、金沢武士団というチームで練習生として参加させていただいていました。
 
|夢であった5人制でプロになるチャンスが目の前にある中で、3人制バスケにはどのタイミングで出会ったのでしょうか?
実は、提示された選手契約の条件では、生活ができない現実と向き合い自ら退団することを決めました。辞めた後も色んなチームから誘われましたが、社会人リーグではバスケでお金を稼ぐことは厳しいですし、実業団に所属しても仕事と両立することはできますが、自分のやりたい仕事ではない業務をやることになるのは個人的に納得できませんでした。色々なことを考えて、バスケットに時間を費やすのはもうこれ以上難しいかなと思っていた時に、3x3(3人制バスケ)に出会いました。当時、まだ五輪競技ではありませんでしたが、今後規模が大きくなりそうな勢いがあったので、需要のあるところでプロとして活躍したいと思い、3人制バスケを本格的に始めることにしました。
 
|3x3の魅力を教えてください!
距離感ですかね。コートと観客の皆さんの物理的な距離感もそうですが、プロ選手という存在が身近に感じられるという距離の近さは3x3ならではなのかなと思います。他のスポーツにはない魅力ですね。
 

プロを離れ、自分と向き合い見つけた次の道しるべ

|今の働き方をすることになったきっかけを教えてください。
昨シーズンからSANJO BEATERSと契約をしていて、契約するにあたって代表とお話させていただいた際に、会社として確立させたいという想いを伺いました。自分としても元々経営をしたいビジョンもあったので、居住を千葉から新潟に移して、選手と経営を両立していくことに決めました。現状、ビジネスとしてはまだまだ成り立っていませんが、ここから長期スパンで選手や会社の育成をしていき、3年後の完全経営を目指して奮闘中です!
 
|なるほど。居住まで移されるとはまさに行動力の塊ですね…!ちなみに「元々経営をしてみたいビジョンもあった」とお話をされていましたが、こちらも何かきっかけがあったのですか?
きっかけは22歳の頃、バスケ選手としての競技人生に節目を付けたタイミングでした。幼少期からバスケを第一に優先して全力で歩んできたので、自分からバスケを引いたら残るものが少ないことに気付いて。この先の人生で自分がやりたいことを書き出した時に、実現させるためには資本主義に対する知識と金銭が必要であることを目の当たりにしたんです。学生のうちは夢だけを追っていましたが、ビジョンとファイナンスはセットで考えなければ夢物語で終わってしまうことに気づき、自分の次のステップを本気で見つめ始めました。
 
|そこからお金や経営に関することを勉強し始めたのですね。
同じような境遇でサッカーを頑張っている同級生が、体育会学生向けのキャリア&ビジネスコミュニティ(Arxcs)を利用しており、実際に自分も利用してみました。少しずつ資本主義の仕組みをはじめ、経営や数字の基礎を理解できるようになりました。
実際にどうやったらお金が動くのか、自分でも色々試行錯誤しながら実践してみて、理解を深めて今の業務に活かしています。

仕事と競技を両立していく中で大事にしていることと今後必要になってくること

|現在、チーム運営業務をしながら選手としてもご活躍されている中で、仕事と競技の両立において大事にされていることはありますか?
理想の姿を言語化するように心がけています(5W1H+ファイナンス)。加えて、その理想像に達するためのロードマップと中間目標を立てると、最終目標に向かってやるべきことが明確になりますし、仕事も競技もそれぞれやりやすくなると思っています。
 
|デュアルキャリア人口を増やしていくにあたって、長根さんが必要だと思うことは何ですか?
アスリート自身が仕事と競技を両立していくことに対して覚悟を持つことは大前提ですが、環境的な部分で言うと、柔軟な働き方に理解のある企業を増やすことも必要だと考えています。選手ができる価値提供を企業に明確にお伝えした上で、ひとりの競技者として頑張る個人に対して、企業として何ができるのかを考え、検討していただくことも、アスリート社員の理解促進への一歩だと思いますね。
 
また、デュアルキャリアとして頑張る方々のコミュニティの形成も必要だと思います。競技種目は異なっても、同じような状況下で仕事と競技を頑張る者同士のコミュニティは意見交換や情報共有の場になりますし、不安も払拭できると思います。例えば、メンター制度などがあると尚いいですよね。仕事と競技を両立して成功している先輩方が、現状両立していて悩んでいる方たちのサポートができる環境を提供することも、今自分がやりたいことの1つです。

スポーツを継続してきたから得られた「人間力」とこれから培っていきたい「経営力」

|今までご経験されたスポーツと仕事で共通して活きているチカラはありますか?
「人間力」です。バスケ人生を通して培えたチカラだと思います。
 
|長根さんにとっての「人間力」とは?
自分の中では、チームワークやコミュニケーション能力、リーダーシップ、計画性、実行力などを総じて「人間力」だと思っています。スポーツをやる上で必要なフィジカル面の力はもちろん実践で身に付くものではありますが、そういった社会を繋ぐ要素もスポーツを通して学び得るものではないでしょうか。
 
|今後身に着けていきたいチカラはありますか?
会社として軌道に乗せていくためのファイナンス面、「経営力」です。お金の流れや管理面は引き続きもっと知識をつけたいと思っています。それこそ経営陣のコミュニティにも積極的に参加していきたいですし、そこで学んだ考え方やあり方を実践していきたいです。

3x3の未来と個人としての次の目標

|今後の3x3界をどう展開していきたいですか?
今、3x3にはいくつか課題があると思っています。まずは認知度の向上ですね。今、自分たちとしては学校や地域への普及活動を通して認知向上を図っていますが、自分の所属チームを含め、まだまだマーケティング面ではできることがあると思っています。エンタメ性や華やかさを強めたSNSなどを通して、3x3やバスケを知る機会を増やしていきたいです。
 
また、プロ化にあたっては選手一人一人が3x3界を盛り上げるための意識と取り組みを実行していくのも大事だと思っています。それに伴い、チームや選手に優しい環境づくりも必要になってくると思います。現状、リーグ参入には結構な金額が必要になりなる一方で、多くのチームは安定したスポンサーシップの獲得が厳しい状況です。選手のサポートも弱いため、この競技を続けていきたいプレーヤーが増える一方で、選手として活動する僕の意見としてとは魅力があるとは言い切れないのが現状です。この環境が少しでも良くなれば、収益面においても選手面においてもモデルケースが出てくるはずです。ここに関しては特に、3x3界全体で取り組んでいきたいです。
特に社会貢献を含めたソーシャルスポンサーシップに共感する企業さんと協働して、スポーツを通じた人づくりを目指したいと思います。
 
|個人やチームとしての目標を教えてください。
個人としては、チームを会社として回せる状態にすることと、スポーツに魅了された人達が今までやってきたスポーツだけでなく、人生の選択肢を僕をきっかけに広げられたと言ってくれる人を100人作りたいです。
チームとしては、三年後日本一、日本代表選手輩出を目指しています。
様々な壁にぶつかり、否定されてきた経験もありますが、自己実現に向かって歩んできたロールモデルになり、自分と同じような境遇の人たちを勇気づけられればと思っています。また、経営者でもありプレーヤーでもあるので、表でも裏でもチームに貢献できるような人材になれるように努力を続けていきたいですね。

『人々を繋げるもの』―個人そして社会を繋げるスポーツ

|長根さんにとってスポーツの価値とは?
『個人や社会に感動を与えて人々を繋げるもの』だと思います。分かりやすい例で言うとオリンピックですよね。複数の競技を通して経済を動かしつつ、社会に感動と勇気を与えますし、色んな輪が広がっていく象徴です。スポーツを中心に、国内外問わず同じものを分かち合えるのは、スポーツに携わる者として嬉しいですし、誇らしいことだと思います。
 
|最後に読者にメッセージをお願いします。
スポーツは人生の手段だと思っています。そのスポーツを通して自分は何を得て何を達成したいのかさえ明確にしていれば、それは人生の糧になります。スポーツをやっていてもそうでなくても、自分のキャリアや人生に迷いが生じることもあると思いますが、その時は自分自身としっかり向き合ってみてください。必ず解決できるヒントがあるはずです。もし分からなければ、いつでも相談に乗るのでご連絡ください(笑)!

編集後記

常に目標を置きながら、達成のためのアクションを絶やすことのない長根さん。自己実現の体現者になりたいと語る長根さんからは、スポーツを通して様々な境遇を乗り越えてきた強さを感じました。競技者と経営者としての二面性を持つ長根さんの今後のご活躍も楽しみです。
これからも応援しています。インタビューにご協力いただき、有難うございました。

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